シンドラー日本撤退、事業継承者の重い課題

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2006年6月、毎日多くの人が利用する”安全な乗り物“と思われていた昇降機で、東京都港区の男子高校生が亡くなる悲惨な事故が起きた。高校生がエレベーターから降りようとしたところ、扉が開いたまま急上昇し、建物の天井とエレベーターの床に挟まれたのだ。

それからわずか6年後。2012年10月にも石川県金沢市のホテルでも同様の死亡事故が起きている。この2件の事故はスイスのシンドラーエレベータ(シンドラー)製によるものだった。

シンドラーは2016年4月に日本市場から撤退することを明らかにした。現在継続中の訴訟の対応をするため日本法人は存続させるが、販売や保守メンテは行わない。撤退するシンドラーの保守メンテを引き受けるのが「日本オーチス・エレベータ(日本オーチス)」だ。

■オーチスは世界一の高層ビルにも納入

10月3日、日本オ-チスはシンドラーの昇降機のサービス部門(7月に分社化)とシンドラー子会社で昇降機(エレベーター、エスカレーターなど)の保守メンテ専門の「マーキュリーアシェンソーレ」の買収完了を発表した。約600人の従業員も引き受ける。

日本オーチスは米重工大手のユナイテッド・テクノロジーズ・コーポレーションの昇降機部門「オーチス」の日本法人だ。オーチスの売上高は約1兆2000億円(2015年)で、昇降機の世界シェアは首位。毎日20億人を運んでいるという。世界一高いビルのアラブ首長国連邦のブルジュ・ハリファなどにも納入している。

200以上の国と地域で製品を販売、昇降機を稼働させているオーチスにとって、日本は5本の指に入る重要市場。国内参入の歴史も古い。1896年に日本で初めてエレベーターを日本銀行本店に納入、1914年にも日本で初めてエスカレーターを日本橋三越呉服店(現・日本橋三越本店)に導入している。

買収後の戦略は?

 日本オーチスの売上高は599億円、営業利益は155億円(2015年)と高収益。国内シェアは三菱電機、日立製作所、東芝に続く4位グループで、フジテックなどと同規模とみられる。

買収額や今後の売上規模の目標は明らかにしていないが、日本オーチスのステファン・ド・モントリボール社長は「自助努力では、この規模を獲得するのに20年はかかっていただろう。それを一夜にして手にすることができた。成長を加速させる良い機会だ」と意気込む。

オーチスが重要視するのは単なる保守メンテではなく、更新工事(大規模なリニューアル)といわれるものだ。部品交換だけなく、エレベーターの扉を変えたり、巻き上げ機や制御盤などの機器も省エネ性や安全性に優れたものに交換したりする工事だ。

保守メンテや更新工事を行う台数は、年々増加している。エレベーターの保守台数は、2005年に59万4365台だったものが2015年には、72万4854台に拡大(日本エレベーター協会)。一方、新設は2005年に3万4813台だったものが2015年には2万4343台に減少している。縮小する新設工事をライバルたちと奪い合うよりも、更新工事で上乗せする方が効率的なのだ。

■シンドラーの事故多発イメージを払拭できるか

事故のあったシンドラーを引き受けることについて、モントリボール社長は、「シンドラーブランドを買収するわけではない」と言い切る。買収したシンドラーのサービス部門は、オーチス・エレベータサービスに会社名を変更し、イメージ払拭を図っていく。「新しい会社にすることで、過去ではなく将来に向けて注力する」(モントリボール社長)。

当面はシンドラーの保守メンテが上乗せされることで、業績拡大が見込まれる。だが、更新工事は日本メーカーも力を入れているところだ。日本の場合、製品を納入したメーカーが自社で保守メンテを引き受けることが多いため、設置台数が多い三菱電機や日立製作所、東芝が圧倒的に有利である。

モントリボール社長は「世界で7社と戦っているが、日本はその4社があり、特殊な市場」と厳しい競争環境を認識しつつ、「オーチスは昇降機でグローバルリーダーだ。日本のニーズに技術力や専門性で貢献したい」と語った。

シンドラー製のエレベーターで起きた死亡事故は、いまだに強烈な印象を残している。決して良好とは言いがたい過去のイメージから脱却し、成長につなげることができるか。オーチスにとっても長期戦となりそうだ。

富田 頌子 氏

 

Yahoo!ニュースより
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161009-00139449-toyo-bus_all

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